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夜旅

(BGM:SIBELIUS SYMPHONY No.4 / John Barbirolli conducts Halle Orchestra,EMI)

黙然と歩いて居る。白光の荒野は夜風にさらされ一層の氷感をもたらす。木葉一枚無い岩盤の上を、黙然と歩いて居る。

氷粒の如き星々の間。青くなり始めやがてどこからか明け鴉の鳴声がひびく。かなたに暖色を帯びた色渦が広がり紫が赤に、橙にそして黄色に、混ざりあい溶け合ってゆく。ざっと広がる曙の縁から、紅い球がのっくり顕れる。朝霧がさっと動く。たなびく雲が燃える体に、じっと耐えて居る。大理石の荒野から十字の光が立ち昇り男を包み込んでゆく。絶後の光景を暫し立ち止まり焼き付けようとする。ぜいぜいと喉を鳴らし乍ら、風景を音に置き換え様としている。カンバスに描かれる微細な音符達が重く軽やかに弾け沈潜し、荒野の詩人は真青な空が戻る中をすくと立ち尽くす。徒に音符を並べ直しては首を擦る。渦巻く音がやがて茫洋と形を成し始める。男はゆっくり肯くと、無造作に横たわった。岩肌の冷たさがコートを通して背筋を打つ。

顔の横を這い回る虫が居た。とても素早く目玉で追うも追い付け無い。波打つ様な岩肌が僅かに震えている。えんえんと同じ調子で、細かく揺れている。男は横になり乍らも音符を刻み続ける。弱々しい光が全身を包む。生暖かい風が気まぐれに頭を撫でる。

ゆっくりと揺れるブランコが想い浮かぶ。小さなブランコが誰も乗せずに、揺れている。周りには正装をした紳士淑女が居並んでいる。揺れる我が身を畏敬の眼差しで見下ろしている。弓で薙ぎ払ってやりたい。弦で弾き飛ばしてやりたい。全てが音符となってゆく。

遠くで牧童の吹く角笛が聞こえる。呼んでいる。老いさらばえ病みついた己が身を想う。我は羊になったのだ。目を開く。見下ろす子供の顔がある。焦りの気分がざわめく。子供は手にした角笛を取り、男の顔めがけて吹きおろす。

・・・だが聞こえてきたのは、風の音だった。凍て付く光景が再び男を包み始める。

蒼い夜、再び旅は始まる。

(1999/11記)
by r_o_k | 2001-01-01 06:01

剣と魔法の現実社会

剣と魔法しかない世界にやってきた。

まず朝食の準備だ。薬草を15種類混ぜて、呪文をとなえて30分。これが「火焔の魔法」。やっと火のついたかまどに素焼きの壷を置いて、こんどは「ほっかほっか朝いちばん!」と叫びながらぐるぐる走り回る。これが「クノールカップスープの秘法」。ぶりゅぶりゅと壷の中にわきあがる黒い液体・・・しまった、まちがえて「ドトール」をとなえてしまったようだ。まあいーや、と大剣ひきずり狩りに出かける。早速どでかい爬虫類を発見。頭に刺青された数値と自分の腕に彫り込まれた数値を比較、よし勝った。ドタマかち割ってモモ肉をずばり、さあて帰ってまたまた「火焔の魔法」。30分間待たされたあげく、かまどからは「洪水」が!シマッタまたまた間違えた!濡れた薪に火はつかず、表で焚き火。やっとこさ炙った肉、これが

マズうー!!

やっぱりレベルの高い魔物でないとまずい。大味で栄養もない。ぺっ、ぺっ。「ブラウンミクロン!」髭が剃れる。「サンスター!」しゃかしゃかがらがら、と「歯磨きの呪文」、これだけは何故か直ぐに決まる。スーツをまとって、さて会社だ。減りきった腹を抱えながら駅へ向かう途中、向こうから聖書を抱えたローブの男がやってくる。アブナイ、宗教の勧誘か?

「仲間にしてください」

やだよ。ホームに登る途中、剣と剣がふれあって斬り合う連中を尻目に、「コンパクトの呪文」で小さくした大剣をポケットに。やがて来た「電車」に乗り込む。電車とはいうものの、「エジソンの呪文」によって動いている魔法の箱だ。さて今日は出張である。「出張届けの踊り」を踊って課長印を貰う。羽田にいくと巨大な(ジャンボ)竜がたくさん蠢いている。しっぽにカンタスと書いてある竜に乗り込む。

「ぐえーっ」

ビジネスクラスは腹側にぶら下がるから比較的楽。エコノミーは大変だ。なぜなら尻尾にぶら下がるから、揺れる揺れる。

「ひえー」

おちてく奴等がひっきりなし。そのうえ竜のやつぼたぼた糞をしやがるから、ひっかかるし臭いだろうなあ。ちなみに背中がファーストクラスだ。スチュワーデスの妖精がやってくる。小さくて何を言っているのかわからない。どうやらシートベルトをつけろと言っているらしい。困った。「シートベルトの呪文」を忘れた。隣の魔道師に聞くと「修行が足りん」と闘いを挑まれる。しまった、剣をポケットに入れたまま、スーツも預けてしまった。仕方なく奥の手を使う。両腕交互にひらひらしながら、腰を左右に振り振り振り振り、舌で鼻の頭を繰り返し舐めるこれが「魔力吸収」すなわち「ふしぎなおどり」!だがきかない。あ、黒目を左右に開かないといけないんだった。これが難しい。

どか!

「ボンバー」を受けて雲の中、まっさかさまにおちていく私は思った。

ファンタジーって矛盾だらけだ。

2000/11/21(tue)
by r_o_k | 2001-01-01 05:59

神サマの憂鬱

お神酒が掲げられた。御簾のむこうでなにやら唸っている白装束がわずらわしい。いつも乍ら滑稽な情景だ。

さてこれをのまなきゃならん。つーんと米酢のような独特の刺激臭が遠い昔に黄泉の国へ入ったことを思い出させる。あのときの匂いはまだ堪えられたが、このアルコールだけは何千年たっても駄目なものは駄目なんだ。

すする真似をする。だって回りには白髭の神神が・・・客どもには見えないけれども・・・屹立して睨んでいるんだから。

げえっ

私の吐き気が巫女に渡り、激しく鳴咽を繰り返す。巫女は共鳴しているだけでこっちもおんなじ苦しみを味わっている、ああ、臭い!

げろげろげろげろ

大皿に巫女の下物が滴り落ちるとこちらも何とか持ち直す。そこだけはシンクロしているというわけだ。

「ぶつぶつぶつぶつ・・・」

マツリが終わって一段落。境内は砂利を掃く音をのこし静まり返った。足元に戯れる子鬼に、あの「吐いたもん」は何に使われるのか、見て来るように命じて遣る。何百年も繰り返されてきたのに未だに理由が判然としない。

「なんだってあんなもんを。ひょっとして何か薬に使うのかな。おれの気が少しは入っているだろうから、人間なんて脆いもんだから、そんな気だけでも治っちまう病があるんだろう」

「わかりましたかみさま」

「おう、速かったな」

いつも消えてそれきりなのに今日は何故か戻ってきた。しかも30分とたってない。

「洗ってました」

「?」

「新聞紙に包んで捨ててました。皿は洗ってました」

・・・勝手な想像だった。

まったく人間てやつは、神の気持ちも知らないで・・・

2000/11/18(sat)
by r_o_k | 2001-01-01 05:58

除霊

「今すぐ去れ!」

嫌だ。絶対にいやだ。

「成仏しなさい」

消えろ、ということだろう。“存在しなくなれ”だと?折角生きるよすがを見つけたというに。

大体お前などに何がわかる。“全て消えてしまう”ことの恐ろしさが、お前のような生者になど!

「キエーッ」

やめてくれ!俺は無神論者だ。お前のようなエセ者…見るのも聞くのも嫌だ。

「ウヤヤヤヤーッ」

気色悪い。やめてくれ。やめてくれ!

「ハーッ、臨!兵!闘!…」「高級霊よ!お力を!」「この聖水の…」

((えんえん五時間続く))

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム!!」



…もう疲れた。

いいや、もう。

消えて…しまお…う……



「…済みました。」

「ありがとうございますう。さすがキボ先生、ほんとうに何と言ってよいやら」

「これは些少ですが…」



札束。

…さつたばだ!!これさえあれば、俺は、おれは!

「ああセンセイ」

「また現れたか!しつこいやつめ!ぎょーしんはんにゃーはーらーみーたー…」

((このあとえんえんと闘いはつづくのであった))

オワリ

(1999/11)
by r_o_k | 2001-01-01 05:56

ねむたい時間

「あなたの時計です」

ぼくは枕元に置かれた「肉塊」を見た。白い網目状の繊維がうす桃色の地膚を覆い、巡る小さな肉管が紅い液体を循環させて、どくり、どくりと動いている。

「・・・過労ですね。暫く外に出しておいた方が良いでしょう」

医師は一瞥もせず立ち去った。付き添いの上司が無表情にその後を追う。

人間は誰でも同じ時間の中に生きていると思ったら大間違いだ。君には君、ぼくにはぼくの時計があって、それぞれの時間を生きていくために、それぞれの時を刻み続ける。

夜鐘が死を告げるまで。

ぼくは人一倍速く時を刻む。だからこうやって時々外へ出し、虫干ししてやらないとならない。ふと雲が太陽を隠し、陽射しが緩んで、顔を覆ったカーテンの影が揺れた。

季節が廻っている。

かつては仕事場のみんながぼくを尊敬してくれていた。上司の受けも良かった。

なぜってぼくの時間は速かったから、人生万事が順調にいっていて、そのうえ更に激しく遊んでもいた。とにかく眠りもせずによく働けるものだ、と思っていたら、

ある日、目の前が真っ暗になった。

ネジが切れたのだ。

緊急手術でなんとかネジをまいてもらって、ぼくの時は再び動き出した。

迷惑を掛けた負い目を感じつつも、半年ほどで職場に復帰した。だが周りが気を遣うあまりたいした仕事が廻ってこなくなってしまった。気ばかり焦ってやることがない。この時計の刻みを無駄にしたくはないと上司にヒトコト言っただけで、さらに閑職に飛ばされた。

ふと強い風が窓を乗り越え、甘い香りを運んできた。沈丁花だ。

沈丁花の根にはちいさな黄金虫が付く。夏のある朝一斉に羽化して、地上へ顔を出す。

キャラメル色の甲虫がたくさんたくさん、薄明の中に顕れては、次々と飛び立ってゆく。

あとには小さな丸い穴が無数に残る。沈丁花は子沢山の母親のように、毎年、甲虫を飛び立たせていたっけ・・・子供の頃、庭に沈丁花があった。

そんなことを考えている。

「胡座をかいた人間の台詞だな」

ぼくの時計が嫌らしい声で呟いた。気にすることはない。今ぼくは時間の外にいるのだ。真新しいシーツの感触は軽やかで、風が吹き込むたび宙を舞うような心地がする。ちらちらと木々の葉擦れが影を落とし、床の上に不規則なモザイク模様を描いて見せる。水晶の輝きをもった雲が、熱さに耐え切れなくなって眩い火球を放り出す。ぱっと照らされた水差しの花が黄金に輝く。

「ああ、気持ちいい」

「・・・まったくいい御身分だよ。」

「気持ちいいんだから仕方が無い」

「みんな働いてるぜ、ガリガリ、ガリガリ。」

どくり、どくりとあいもかわらず時計は蠢きつづける。ぼくの中にいない限りこいつは何もできやしない。

「みんなあんたを追い越して、そらアイザワなんて課長だぜ。なんてザマだ。同期で一番優秀だっていわれたおまえが、今や標語のポスター張りか」

鳥の影が部屋をよぎった。目を上げるとひよどりの尻が一瞬見えた。

「ポスター張りだって重要な仕事さ」

「ポスター張りで過労だって?わらっちゃうぜ」

思わず噴き出しそうになった。

「だってあれきりおまえがすぐネジきれるのだからいけないのさ。もとはといえばそこが原因だろ」

「・・・」

そろそろ陽が陰ってきた。一眠りしようかと思う。

「ゆっくりいこうぜ、まだ人生は長いんだから」

「・・・長いと思ってるのか?」

顔を上げた。時計の動きが少し緩んだ。

「なんですぐネジきれるか知ってるのか?医者はおまえに言わなかったのか?」

何を言いたいのかがわかると、ぼくは軽く笑ってみせた。

「知ってるさ。だってたいがい刻むのが速い人間の時計は」

そこまで言って眠気がさし、ぼくは言いかけた言葉を喉の奥に仕舞い込んで、カケスのわらう声を遠くに聞きながら、まどろみに入る。時計は夕陽の長い陰りに、寂しそうにひとりどくりどくりと動き続けている。

医師はこうしていればまだ10年はもつというが、時計のことは時計が一番良く知っている。多分近いうちにゼンマイが断ち切れる。そして最後に、けたたましく鳴るのだ。

「ジリリリリリ!!」

ぼくは生きているうちに生きていることの素晴らしさをもっともっと感じていたい。

しかしこの時計が体内に戻されると、その気が失せて、うっくつしたポスター張りの仕事を、人の何十倍の速さでやり続けることになる。例え意味の無い速さだとしても、ぼくはそう生まれついてしまったのだから仕方ない。

・・・だから、最近は戻す手術の前に必ず、こう言っておくのだ。

「ひと月したら又、ぼくを過労だと言って呼び出してください」

切なる顔に、医師も肯くしかないのだ。

2000
by r_o_k | 2001-01-01 05:55

夢幻

私はそこにいたのかもしれない。

桟橋に水兵が立っていた。

光の鱗がさざめくように穏やかな海。

彼が桟橋に立っていて、少女はボートに乗っていて、互いに見詰め
合っている。少女の様子は良く分からない。小舟とドレスと日傘の
シルエットが、つと水面を滑って、彼を暖かく包み込む。

ただ立っていた。

少女は黙って彼を見ている。

少し、波が立つ。

少女の思い出の中に、彼はゆっくりと消えてゆく。

微笑みだけが残る。

彼は海で死んだのだ。

・・・私はそこにいたのかもしれない。

了(1999・11)
by r_o_k | 2001-01-01 00:00