昭和元年五月三十一日午前二時半頃代代幡署へ青ざめた青年がやってきた。山形県の豪農の長男だったが四月に郷里の中学を中退して上京、犬猫病院に見習いで勤めたものの過労で逃げ出しさ迷い歩きついには一文無しになってしまった。悲観のあまり渋谷から代々木の間の山手線で数回飛び込みをはかったが、そのつど郷里の母親の生霊が現れ説教を始めたという。結局どうしても自殺できないので身の振り方を相談しにきた、とのことだった。(田中貢太郎「日本怪談実話」)

死にたいが誰かに止めてもらいたいと言う気持ちもまだ残っている。
未練があるのさ。
本当に死のうと思っている人はその時点で死んでいるって話をどっかで聞いた。