怪物図録・生きながら天狗になる僧侶

京都の東松が崎に日蓮宗の寺があった。ここの上人は徳が高く門弟にも上人格の聖が多くいた。上人、患いついて遷化(死)遠からずと見える頃から、何となく、顔付きにぞっとするものが現れ、看病する面々は心配に思っていた。

あるとき上人が不意に起き上がった。

「只今臨終ぞ」

四方をきっと睨み付ける眼は輝き、鼻が見る見るうちに高くなっていくと、左右から羽根が生え開き、寝室より走り出て縁側に行ったと思うと、向かいの如意が岳のほうへ飛び去った。

そのまま行方知れずとなった。

弟子であった五人の上人は皆宗派を改めた。

浄土宗に一人改宗した了長坊は東山で念仏をとくかたわら、このことを詳しく語った。人々は舌を震わせ畏れあった。

この上人の跡様が思いやられて哀れである。

(新著聞集)

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言うまでもなく念仏宗派寄りのこの随筆の、他宗に対する(特に修験の山伏への)偏った見方が反映された採話ではあるが、僧侶がいまわのきわに天狗に化ける、というのは後生が牛になる、という俗説にも通じて興味深い。新著聞集にも前世が僧侶の牛の話が出てくる。

怪物図録(本編)
by r_o_k | 2008-11-25 23:47 | 怪物図録 | Comments(0)