怪物図録・生きながら天狗になる僧侶
2008年 11月 25日
あるとき上人が不意に起き上がった。
「只今臨終ぞ」
四方をきっと睨み付ける眼は輝き、鼻が見る見るうちに高くなっていくと、左右から羽根が生え開き、寝室より走り出て縁側に行ったと思うと、向かいの如意が岳のほうへ飛び去った。
そのまま行方知れずとなった。
弟子であった五人の上人は皆宗派を改めた。
浄土宗に一人改宗した了長坊は東山で念仏をとくかたわら、このことを詳しく語った。人々は舌を震わせ畏れあった。
この上人の跡様が思いやられて哀れである。
(新著聞集)
言うまでもなく念仏宗派寄りのこの随筆の、他宗に対する(特に修験の山伏への)偏った見方が反映された採話ではあるが、僧侶がいまわのきわに天狗に化ける、というのは後生が牛になる、という俗説にも通じて興味深い。新著聞集にも前世が僧侶の牛の話が出てくる。
怪物図録(本編)