
東北の村むらに伝わっていた一種の呪法。いわば(どこの村にもどこの国にも普通にあった)掟を守るための厳しい戒めの儀。糧物などの盗難が発生すると、相談をして高さ一丈もある人形をしつらえ村の四辻に置き、各家々から盗まれたというものと同じ物を少しずつ持ち寄って、人形に背負わせたりぶら下げたりする。神主が「盗人早く出せ、人形責めても盗人以外に天罰下すな」といった旨の祈祷ののち、人形の腹の央に、思いっきり御幣を突き刺す。
そこに向かって一番盗まれた量の多かった村人から順に、槍や鎌や刀でも何でも、恨みを篭めて突き刺していく。「よくも人の家の米を盗んだな悪疫で死んでしまえ」・・・被害者からの責めが終わったあと他の村人は人形に悪口雑言を浴びせかけ、全員で好きなように罵倒し叩き切り刻む。
人形に移した盗人への呪いは火あぶりによって完結し、つまりは気持ちの蟠りを転嫁するという人形祀りの一種にすぎないのだが、じっさいは神主などが一人ひとりの責める様を観察し、不自然な責め方、悪口をきいた者を盗人として吊るし上げるための「試験」であったようだ。
昭和初期にはおおかたすたれていた模様だが山間の小さな村には残っていたという。もともとサイノカミや大将軍といった大人形を使った祭りを行う習慣のある東北では、意味性が失われ形式のみ残っているかもしれないがよく知らない。
参考:「東北の民俗」仙台鉄道局編、日本旅行S12、秋田県仙北郡長野町
怪物図録(本編)
何気に覗いた鏡に映っているのは自分の後姿。
それが幽霊とかキツネとかタヌキの仕業じゃなくてまぎれもなく自分。
でも後姿が映る。
これを想像しただけで鳥肌なのだ。
これ以上の恐怖は無い。