江戸時代の見世物の原型としても非常に話題になったもの(旧サイトで原話を紹介してます)。土佐家御用絵師板屋桂意慶長の昔話として文政7年5月、縁の下にあった枯れた鉢植のひとつから魚のようなものが飛び出ていた。息子桂舟がよく見ると菖蒲の根の蠢くところだった。父を呼び、あやめの根が魚の形と化し、抜いて水に入れるとまず、口から出来始め、そのうち尾鰭がついて、一時ばかりの間に全く魚になってしまった。
少し金色の入った鯉の子に見えるそれを噂する人や見物に来る人ひきもきらず、そのうち屋代弘賢翁が蟄龍ではないか、龍種はみな最初は小さく別の物でいるが時日を待って風雨を起こし昇天しようとするものだ、さわらぬ神にたたりなしの諺にしたがって広い水中に放ってやるのがいいという噂をした。そこで弁慶堀に放した。自然変化は中国の古書から移入された考え方だが(完全変態の昆虫、たとえばカブトムシやスズメガからの連想だろう)、これは絵師が出来事を絵に起こして腕を売り込む詐話だったとされている。植物が動物に変化する見世物は作り方が難しいので少ないようだが、話としては腐った草が蛍になる(科学的に説明できそうだが)ものが有名。
(諸方見聞図絵、藤澤衛彦「変態見世物史」文芸資料研究会S2)

怪物図録(本編)