2008/8/17床下の女、狸に魂を奪わるの巻
2008年 08月 17日
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小倉候の神田明神下の中屋敷に、女隠居が住まれるようになった。そこの下女の卯という者が八月ごろより行方知れずになっていた。どうしたんだろうとすごしていたが、同年十一月の始め、長局の縁の下から手を出して、貝殻で水を掬って飲む者がいた。皆が誰だと言って出てくると奥深く逃げこんでしまう。化生のものに違いないと役人に届けたところ、すぐに人を入れて探すことになった。その結果、縁の下の隅に隠れ居る者を引き出してみたら、八月に失踪した下女だった。髪は乱れ痩せ衰えていた。仔細を尋ねると、若衆三人に仕えられ、日々楽しく過ごしているのだという。縁の下に一人は過ごしにくくも苦しいこともなかった。食事はかわるがわるいろいろなものを持ち来てくれて、毎日好きなものばかり食べ、何一つ不足なものはなかったという。いったいに腑抜けとなってしまい、言葉も定かではなく、ようやく聞きだしたことがそれである。そうとなれば早速家へ知らせるべしと当人も送ったが、程なく死んだという。神田あたりで酒屋を営んでいた者の娘だった。この屋敷には狸が多く、まれにこのようなことがあると言う者があった。思い出せばこの女がいなくなったあと、神仏へのお供え物やしまっておいた食料が自然となくなっていたことがあった。狸がこれを盗んで娘に食わせていたのだろうと噂した。これを聞いた家の女たちはまた狸に見込まれることもあるだろうと殆ど辞めて出て行ってしまった。日々祈祷などいろいろやったものの、化け物が出たというわけでもないため、効果があったかどうかもわからない。ただ気味が悪いだけであった。(「梅翁随筆」著者未詳、巻之一「狸、下女を犯す事」より抄訳)
犬に似ていてそうではないと言うところから来たのかなぁ。