生きるための
2007年 07月 17日
・・・
自分がいきのこるためさ
湯三河一門を弊したところに子供がひとり顕れた。
このひとたちはみんなおっちゃんをころそうとしていたの
そうだ
ぼろぼろの刃を研ぎ直す算段をしている。血油が月あかりに映えて不気味に光っている。
おっちゃんは疲れていないな
・・・
息がきれてない。よわい奴等だったんじゃないか。
みなごろしにしなくてもよかったんじゃないの
おかしなことを言う小僧だ。小僧の言うことにいちいち答えるべくもなく無言で裾を払う。刀の根元でぐきりと首骨を掻き切ったときの、湿った生臭い匂いが滴っている。
おっちゃんは、人をころすのがすきなの
思わず眉間が寄った。無礼打ちにしてもよい。だが相手は汚い麻布を纏った小僧である。刀の汚れにもなろう。
生き残る為だ。
目を合わせず懐紙で刀をゆっくり拭う。
生きること、それが人を弊すことになる。そういう時代なのじゃ。
それなら、生きるために、人をころすことはいいことなの
ほう。
中仲面白い小僧だ。少し教訓めいたことでも言ってやろう。
そのとおり。生きるためには何をしても構わぬ。それが今の世の常じゃ。
大体、自分が生きなくして、どうして人を生かすことができよう!
・・・じゃ、
いただきまーす!!
「妖怪首かじり」はぱくりと大きな口を開けると喉元めがけてとびかかってきた。刀を振り上げる隙もなく首筋が「ぷちり」と音をたて、剣豪をめざした男も他の同輩同じく地に伏した。けらけらとわらう「首かじり」は吐き捨てるように言った。
生きるために人をころすことは、いいことだっていったよね
牙立った口元から生血を垂らし、片腕に男の髻を引っ掴んで、ずる、ずるとひきずっていく。
墓地には「家族」が腹を空かせて待っている。
2000/11/26(sun)
