揺りかごから酒場まで☆少額微動隊

岡林リョウの日記☆旅行、歴史・絵画など。

憑依談・らくだ

・・・

何?「らくだ」が死んだ?そりゃめでたい。ヤツぁ図体ばかりでかくて働きもしねえ、力ばかり強いもんだから家賃一度も払ったこたぁねえ。めでたいめでたい。塩でも撒いて次、探すからお前さんどこかへらくだン死骸片付けといてくれよ。こんだいい屑出たら呼ぶから。ほら帰れ屑屋。

・・・それは殺生でございます・・・

あれ?お前さん声が変わったね。ゴミ屑みてぇな声だったんが紙屑みてぇなカスレ声になりゃがった。あれ?お前さんの後ろにいるでけえ男はどこのどいつだい?こん夏の暑いときに二人羽織たぁ酔狂な。

えぇ、らくだ?熊じゃねえか、何だってそんな・・・し、死骸なんかしょってやがるんだ?

・・・それはそれは生前手前さまには大変ご迷惑をおかけした、けれどもあたしゃ身寄りも親しい仲の者もいねぇ厄介もん、死出の旅も銭コなけりゃままならねえ・・・

な、何を言ってやがんだ熊、おい、屑屋何か言ってやんな!

・・・ウラメシイ・・・

く、屑屋、おめえもかい!わ、わかった、わかったから酒の一升でも送ってやるから、今晩きりで手前で勝手に火屋行って、手前で火つけてとっとと行っちまいな!寂しいならそこン熊もつけてやらあ!屑屋連れてとっとと去ね!

・・・オラ飯欲シイ・・・

こりゃ贅沢な仏だ、そこまでは奢れねえ、家賃だって棒引きにしてやるってんだ、しょうがねえ、剣菱三升!コレで成仏しちまいな。どうだ、え?

・・・オドル・・・
・・・オドルゾ・・・
・・・”カンカンノウ”オドルゾ・・・

こ、こりゃ二人揃って何ちゅう声を出す!

・・・三人ですだ・・・

あっ一号長屋の赤ん坊泣き出した!はいはいお舟さん毎度、これね、これ何でもないんですよ、ただの陽気な三人組ですよ・・・おめえところでドコの出身何だい?

・・・俺はおシナよ・・・
・・・おれゃ江戸者・・・
・・・俺忘れた・・・

本物のらくだはどれなんだい!?ま、待て、上がるなコラ、屋がケガれる、ま、待て!何だって肩車するんでえ?天井低いんだからやめとくれよ、ああ、頭!らくだン頭突き刺さっちまいやがった!

・・・ほーれカンカンノウ、カンカンノウ・・・
きゅうのれんす

わ、わかったわかった!ガリガリいうなガリガリ、長屋ン屋根全部吹きとんじまう、やめてくれ!どんぶり煮しめ三杯、どうだ!?文句あるめえ、おい佐吉、見てないでちょっと行って持ってこさせな、こいつらとんだゴネ得だ!コラ突き刺さったまま帰ろうとすんない!らくだぁおっチんでもツラぁさすが頑丈だ、ああ、軒が落ちる!降ろせ・・・

・・・

そいで俺は何で飲んでるんだ?うめえ。えぇらくだ、なんで俺は商売にも行かねえで剣菱なんか飲んでらあね?何?お前には苦労かけたから奢ってんだって?気味悪りいな、生きてた頃はそんなことひとっことも言ったことねえじゃねえか。気味悪りいのは当たり前だ、死んでるからって?ウッヒッヒ、にしても熊の口借りてザンゲするってのも、一生人の稼ぎに頼っておっチンだお前らしい仏っぷりだよ。ああ、夜が明けちまう、さあ行くぜらくだ、じゃあなかった熊!おい熊、お前が言い始めたこっちゃねえか、何蒼い顔してやがんだ、ええ俺はらくだだ?ああそうか、らくだが乗り移ったまんまだから、熊のヤツ死神に連れてかれちまったかな、まあいい、熊公にも散々世話になったからあな、今日だってこいつが言い出さなきゃ俺は今頃まっとうに商売してカカアの馬ヅラ拝んでる筈だのに。ええめんどくせえ。さぁ背負うぜらくだ、じゃなかった熊、そっちン肩持って。

おい酒屋、開けろ酒屋、桶貸せぇ。

貸せねぇだと?おいらくだだぞ、らくだがお前んチの桶入って地獄落ちてえ言ってんじゃねえか、何地獄たぁますます縁起悪い?そう言わずに生前のよしみでさ・・・

・・・ウラメシイ・・・

・・・オドルゾ・・・
・・・オドルゾ・・・

・・・ほーれカンカンノウ、カンカンノウ・・・

・・・

・・・へへっ、結構使える手じゃあねえか、にしても重えならくだ、桶ン入れても肩ギシギシいって、おい熊公、しっかり持たねえか!何今くっちゃべってんのは熊公からくだか?もうどっちでもいいや、行くぜ。

ふう重え。火屋は何だってこんなん遠くにあらあね。長屋に一軒火屋って言うじゃあねえか、しけた長屋だよ、いっそ火つけて長屋ごと供養しちまったほうがよかったんじゃ・・・お、何だか軽くなりゃがった。らくだのヤツ、やっと俺らの身になって身軽に・・・おい熊!底抜けてるぞ、ああ、あそこン転がってら・・・何だよボロ桶だ、屑の価値もありゃしねえ。折角軽くなったと思ったら底抜けてたってぇ。熊、おめえがいけねえんだよ!拾って担いでこい!一人じゃ重いって?おめえ中身らくだだろ?力ばかりが自慢のらくだがらくだ背負えなくてどうするってんでぇ?何?手前で手前背負ったことねえからわからねえ?なるほどそれなら肩貸さないでもねえ・・・おし・・・あれ、何だかさっきより柔らかくねえか、しかも温い・・・き、気味悪いな!

これでよし、底縛り直してやったからあな、らくだ、高くつくぜ、残りの酒と肴は全部いただくぞ、よし熊、いくぞ。

こらぁ火番、何寝てやがんだ、らくだ様の到着だぞ!こいつまた酒かい。人焼いて酒飲んでじゃいい商売だなあ、え隠亡よ。酒飲んだ人間サマゃよく焼けるってぇじゃねぇか。おいさっさと薪掻き集めてきな、こいつ焼いちまうからよ!こいつが誰ってぇ、らくだじゃねえか。きのうフグ食っておっちんじまいやがった。めでてえ奴よ、贅沢たらふく食って酒かっくらって死んじまい、あげくのはてにカンカンノウ踊ってやがんだから・・・え、カンカンノウって何かって?おめえカンカンノウも知らねえのかい、いまどき長屋のガキでも知ってらあ。ほれ踊って見せてやろう。え、俺が踊るんじゃねえよ、ホレ桶の蓋開けな熊、こいつン目ン玉にもモノ見せてやろうじゃねえか。

・・・うぅ・・・

ん?桶から手が出てきたよ?これはどういうこったい?・・・

・・・あぁ、なむあみだぶつなむあみだぶつ・・・

ら、らくだぁ自分で経となえ始めやがった、おい逃げるな隠亡!らくだぁ死んだけどさっきからこん熊に乗り移って供養しろだの焼けだの酒飲めだのうるせえんだ。最後は自分で供養して焼かれちまおうと・・・

・・・あれ、いつのまにらくだン頭、ツルツルになっちまったんだ?俺ら剃ってやってねえよな?

熊、蝋燭持って来い、顔照らせ。

・・・それではみなさまがた、ご愁傷さまで・・・ムニャムニャ・・・これやいいお水で・・・お水は剣菱にかぎりますな・・・うむうまいうまい、うまい水・・・ムニャムニャ

お、おめえらくだじゃねえな!おめえ坊主じゃねえか!

ん・・・ココはどこで?

こン糞坊主、お前の商売の後始末する、火屋だよ!

ヒヤ・・・うーん・・・

ありがたやありがたや、

「お水はヒヤに限りますな」




しまい

>お後がよろしいのか?

2006/9
by r_o_k | 2007-07-15 05:37 | Comments(0)

by ryookabayashi