ぎひーん
動物は長い体毛を振り乱してのがれようとする。びっという音がしてトリモチが外れた。シマッタと思ったが逃げるでもなく毛の抜けた頭を振っている。トリモチを見ると、「キ」という文字がひっついている。今度は後頭部めがけ竿を突き出す。
ぎひーん
黄金の体が月光に映えて美しい。今や首を捕らえた私は、こちらに引き寄せようとすると、マタマタびっという音がして取れてしまった。今度の文字は何だろうと見ると、「リ」だった。
動物はにたりと笑ってこちらを見ている。挙がった尾のなかに「ン」の文字が見える。
急に興味が失せた私は丁度縁先に現れた殿様の、ちょん髷めがけて竿を突き出す。「曲者」という音がした。誰かが口笛を吹いたのでひゅっと胴をちぢめると今度は足が百本に増えた。ぞろぞろと音をたてて逃げだした。何か地を這うような気がしたが、追っ手はもうすぐそこまで迫っているので、そのまま必死で走りつづける。赤い欄干がみえて橋と知れた。そのまま上へ這いのぼっていくと、月の銀光の中に酷い形相のよろい武者が浮かび上がった。トウタだ、しまった。と思ったがもう遅い。
(1999/7記)
