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岡林リョウの日記☆旅行、歴史・絵画など。

2021/4/12【反明治維新】脂取り一揆、山間妄想(><都市伝説)【農家と扇動者】

2006/5/1-4GW:高知松山怪の爪あと〜赤岡絵金蔵、五台山、仁井田(田中貢太郎)、桂浜、室戸岬人面岩、野根山街道笑い栂、道後石手寺、松山太山寺地獄絵、大山祇神社、尾道_b0116271_10524325.jpg

風光明媚な高知市の五台山。

ここに明治初頭設立された西洋式医院。もともと攘夷論さかんな山間地で「あの蛮人医は若者を殺し油を搾り取っている」という風説が流れ、あるいは魔術で「ヘイムシ」という吸血虫にされてしまうといわれ、遂に一揆が起こった、これが有名な「脂取一揆」です。田中貢太郎も実録を残している。

怪物図録;東北北海道東京、山海経ほか;2018/7/10- 写真描きこみ(随時追加)_b0116271_11064147.jpg

油取りとは東北地方の明治時代の都市伝説で、外国人が子供をさらい油を絞る。中世の子取尼から長くある人さらいの系譜のものだ。余所者の排除であったり、串刺しにするなど憶測も広く広まった。柳田氏はその姿とともに戦争の予兆とされているとした。妖怪的な神隠しの一種というものの、この話は明治初期の土佐の膏取り一揆から連想と思われる。2年建造の高知市内の洋式病院にたった「鉄の寝台にしばりつけられ西洋人に油をしぼられる」噂が伝わり、山間で禁教の解かれた修験系陰陽師など煽動者のもと、それを口実とした攘夷的な農民反乱になった。遣欧使節で新政府先導者不在の明治5年、郷士が処分され切腹後晒首された。実のところ引き金は徴兵令で、繁忙期の農家の働き手がことごとく兵に取られることへの抵抗があった(つまり戦争の予兆である)。西南戦争でも土佐は力の強いところを見せつけるため人をたくさん送っている(うちも)。血税一揆の一種であり、それは徴兵令の「血税」という熟語が血がしぼられ西洋人に取られるという意味とのこじつけが全国的に広がったものである。未だ江戸庶民に親しみやすい連想回路に則った話で、情報遮断されていた田舎でいかに西洋人への偏見が根強くあったかもわかる。西洋人に対する都市伝説のひとつとして扱う人もいるそうです。

(補足)

油取り一揆は最初、明治2年に高知の中心に近い五台山に洋式の吸江病院ができたとき、鉄の寝台に縛り付けられ外国人医師に脂を抜かれるという都市伝説が発生したところに端を発する。元々保守的な庶民にとって、激しい土地柄に西洋医学への偏見、そこに目新しい器具(採血か何かだろう)に他愛もない噂が刺激を与えた。徴兵令は明治4年発布だから2年早い。

即ち城下と山中の一揆は後者が後発で大規模だった。前者の噂が山間にも広がったところで、発布された徴兵令に激昂した農民が怪しげな神主の煽動で蜂起したのだろう(西洋に宗教的な意味でも反感を持っていたかもしれない。兵隊は西洋式である)。旧士族は新政府の命で鎮圧に動くのだが、主謀の誹りを受けた郷士の山中陣馬は農民の燻りを利用したのか、収めようとし罪を被り死んだのか。

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とかくバラバラに語られる土佐の昔話、中には観点をもって総括した論文もある。神主まがい、もとい思想的中核をなした教覚は数年で釈放され、新政府のスパイだった噂がある。その入った横倉宮と言えば安徳天皇陵比定地の横倉山、今も険しく神聖視されており、当時の地元はすぐ従ったろう。池川の竹本長十郎は実力面の主謀と言え農出だが武家筋を称し、託宣即戦の陣を構え、農家に加勢を強制した。扇動者はこういう布陣だった。

ところで吸江病院の話ででてくるヘイ蟲という吸血妖怪は兵務司のことを恐らくわざと言い換えている。山間では軍蟲という噂が広まっていた記録があるそうだ。軍務司である。どちらも徴兵に絡んでいるから、五台山の噂は徴兵令まで続いていた筈だ。山間では(まともに信じたかどうかはわからないが)洒落にならない爆弾投下になったのだろう。

もっと現実的には本来兵に適さない盲目者の合格というミスが何度もあったそうで(こういうことは世界戦争の時代でも同じ)、やはり徴兵とは名ばかり、夷人による油絞りが目的という、ほんとは徴兵自体が農家の働き手を奪う悪事であったはずなのに、この段階では噂の方が上をいってしまった。

山間の一揆に話を戻すと、旧士族が県令で派遣され鎮圧、武力行使陣は主謀1名切腹のち晒首、ほか5名ほど死罪で、それ以外は記録に名を残すまでもないとされたはずでどうなったかわからない。今よりずっと賑やかだったとはいえ、土佐一二の清流の仁淀川で古臭く血なまぐさい内輪揉めをやるなと。。藩ごとに厳しさの違った身分制を含む、旧藩主の制度を変えることへの凄まじい抵抗も背後にあるようだ。

妖怪の話をまともに読み解いてくと結構差別に行き着いてしまうので、なんともなー。差別のきつい土地ではなおさら、妖怪は気をつけて扱うべき題材。


by r_o_k | 2021-04-12 21:37 | 不思議 | Comments(0)

by ryookabayashi