揺りかごから酒場まで☆少額微動隊

岡林リョウの日記☆Twitterまとめ日記。過去旅行の整理、歴史・絵画など。

近代怪談 招く松の木 (追記)

近代怪談 招く松の木 (追記)_b0116271_19402330.jpg

杉並区中野町に某と云う家があったが、それは中野の街路からすこし入った十字路の一方の角になった家であった。昭和八年の九月であった。荒牛雪と云う娘があって其の家へ奉公していたが、家庭のつごうで暇をとって、四谷区舟町の実家へ帰っていた。ところが、其日知己のやはり舟町に住んでいる竹内という家へ往って、其処の主婦に 

「姨さん、わたし、これから中野へ往って来ますわ、何人か知ら、私を呼ぶような気がして、じっとしていられないのですから」 
雪は其の時二十であった。主婦は何の他愛もないと思ったが、とめることもないので笑った。 

「そう、往ってらっしゃいよ、佳い人が待っているでしょうよ」 
「いやよ、姨さん、佳い人なんかないことよ」 

雪はきまりがわるいと見えて顔を赧くした。主婦はそれがおもしろかった。 

「隠すことはないじゃないの、あるのが当然じゃないの、彼方にも此方にもあるのでしょう」 
「ばか、ねえ、姨さんは」 

雪は逃げるように帰って往ったが、其の足で中野へ往ったものとみえて、夜遅くなっても帰って来なかった。雪の家では雪が芳紀(としごろ)ではあるし万一のことがあってはならないので、父親が娘の奉公先へ往った。奉公先では来ないと云うので、父親は心配して他を探すべく帰りかけたところで、門の右側の庭にある松の木に、何か黒い物がぶらさがっているのが電灯の光に見えた。父親は不審に思って往ってみた。それは縊死してぶらさがっている娘であった。 

そこで大騒ぎになって医師も来たが、死後九時間も経過していたので蘇生しなかった。其の松の木は、それまで既に二人の縊死者があったので、雪で三人目になるが、今に其の木は昔のままになっているとのことである。
(田中貢太郎「日本怪談実話」より) 
2012年08月08日13:09 mixiサルベージ

昔は「首がくくれそうな木」という形容詞(慣用句)があった。首くくりの木、とはよくこの時代に見る言葉だけれど、今のような洋木ではなく曲がりくねって横に伸びる和木、つまり松が多かった、しかも大木が多かったせいで首がくくりやすかったのだろう。本当にくくった事実があったかはともかく。

by r_o_k | 2017-07-21 19:40 | 不思議 | Comments(0)
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