
昔一人の婦人、髪を結って寝ると一夜にして解けてしまう。果たして夜見ると髪の毛が自ずと散って揺れ動いている。ある医者、深夜に動揺する髪を取り短刀で根本から切り、直に熱湯に投げ入れた。髪はたちまち血と化して、以後この病は収まったという。
これらは血のなすところとされる。医書に髪を血余と書くとおり、そのような髪を器に納めて焼くと皆血と化す。薩摩の農民に頭頂部に瘤のある者がいて、医師の土橋氏が削り取って見ると細い毛の塊が入っていた。解いて見ると牛の毛のような長さ一寸ほどの髪の結えたものだったという。
(佐藤中陵「中陵漫録」)