江戸怪談 亡魂回向親しからずを拒み難す
2017年 07月 20日

増上寺の祐天和尚を迎えようと使いを向かわせたが、法問の最中で暇がない、近辺の信者を集めて念仏せよとおっしゃったので、教えの通り、誰彼を招いて念仏を唱えていると、病人が少し快く見えたので、
どうですか
と聞いた。すると、
只今の念仏は貴いものでございますが、誰もかれも「妙法」のためだけに回向して、私のことを脇に置いていらっしゃいますゆえ、往生を遂げることができません。ぜひともにでも、私のために唱えてください
と言う。
この「妙法」とは七郎右衛門の姉娘で、先に亡くなっていたが、その位牌を正面に置き、ことに娘のことであれば親をはじめ人々も愛念深くし、回向も念入りに行っていた。
「妙信」の位牌は扉に貼り付け回向も自然と疎かになっていた。
このことを聞いてから驚いてすぐに、妙信の位牌を正面に置き、念仏を唱え続けると、病の苦しみはそのまま快方に向かった。
神谷養勇軒「新著聞集」