江戸怪談 ねこのはなし再び・津軽ねこ二題

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私が少年の頃、どこの猫かわからないがとても大きなものが夜な夜な来ては膳棚(食器棚)を荒らし、食物を取って食い食器を壊すさま、人間がやったことかと思われるまでとなった。そんなこんなでこいつを捕えて酷い目にあわせてやろうとするけれど、素早く逃げ去り何もできなかった。 

ある日、二人の手伝いと共に計画して猫の逃げるであろうところを隅々まで塞ぎ、その夜は三人とも寝ずに覗いていたところ、またいつものように来て台所に至った。手伝いと密かに灯りを灯し急に身を起こして、手に手に棒を振り回して追い詰めるに、猫はとてもうろたえて四方をくるくる廻るが、ついに井戸の傍らの格子を突き貫けて脱走した。この猫の大きさは子犬ほどもあるものだったので、さだめし格子を破壊して逃れたのだろうと灯を寄せて見ると、少しの痛みもなくまた緩んでいることもなかった。 

さて、この格子の隙間は各々一寸四五分にも満たない大きさだ。その間からあのような大猫が逃れ出たのはとても怪しい事と言える。男たちは猫は魔の物とあればこの隙間から出るも道理だろう、それにしても気味が悪いと笑った。これは妖魔のなす術かは知らないが、本に読む「鷹の葉貫き」というものに近い方法とも思われる。 

付記。かつて、大蝦蟇が鳥籠の目をくぐった話があって、この猫と類似しているが、また蝦蟇のことでも同じことがあればすぐここに載せよう。 

* 

文化の末年の頃であろうか、私の親族に伊藤某という人がいた。常に猫を愛して育てていたが、折節十月の中頃に風がすさまじく吹き騒ぎ、落ちる木の葉は雨のようでとても物凄い夜だったので、一人灯し火のもとで文を照らして見ていると、やがて亥時くらいのことだろうか、飼い猫がへろへろと出てきて、畳二畳ばかりの向こうに座り手をついて、 

さぞお淋しくおられましょう 

と人のように言った。その声は絹を裂くように部屋の中に冴えわたり、陰々として言葉に表せないほどであった。某はきっと睨み、 

なるほど主を想ってよくも言葉を話し出したな。いざ共に語らおう、近くに寄れ 

と言われた。猫は主の顔をつくづくながめて、さっと身を起こして座を去ったが、どこへ行ったものか、再び見る事なくいなくなったという。 

また、これと同じ藩中の田中某という人の妻は猫を愛して飼っていた。毎朝手拭いの端が泥に汚れていたことがあり、怪しく思って子供たちを問い詰めたが皆知らないと言うのでどうしたらいいかわからなかった。

ある日この妻が衣類を洗おうと未だ仄暗い時に起き出て手水を使っていたところ、この猫が手拭いを咥えながら裏の方より駆けてきて、家の中に入ろうとした。妻の姿を見て驚いた様子で、そのまま手拭いを放り捨てて身を翻し逃げ去った。 

これも再び来ることは無く、行方知らずとなったという。文政四五年の頃だということで、田中氏が語ってくれた。また、死人を魅入ったという話が、新町の造り酒屋兼子某の老母のこととして語られたが、未だそれが本当の話かどうかわからないのでここには書かない。 

(平尾魯遷「谷の響」)

2013年01月25日17:30 mixiサルベージ


by r_o_k | 2017-07-20 13:52 | 不思議

岡林リョウの日記☆フツーのつれづれをフツーに書きたいという変な欲望が囁きました。


by ryookabayashi
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