揺りかごから酒場まで☆少額微動隊

岡林リョウの日記☆旅行、歴史・絵画など。

江戸怪談 幽霊のあいびき

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麻布某の所の寺は、市に近い所にある。

文化の頃、その墓所に幽霊が出て、夜な夜な物語する声が聞こえると言うので、人々は恐れあった。そのあたりに肝の太い商人がいたが、ある時月もほの暗い夜、宵の頃より独り密かに墓所に忍び入り、大きな墓の影に身をひそめて窺っていた。夜も既に子の刻を過ぎて、虫の声がさえわたり、月も時々出てはまた雲に入る、夜風が身に染みて、一重の着物は湿り気を帯び、襟元がぞくぞくと感じられるところが、こちらの柴垣の端より人が立ち出るように見え、又別のあたりからも人が来た。そして互いに語り合っている内容は、とても睦まじげな物語。

商人が耳をすまして聞くに、多くは途絶えて久しく離れていたことを語り慰めているようであり、どんな者だろうと月の明るくなるのを待って背伸びをして見るに、一人は二十四、五の痩せた男で、もう一人は六十余りの老婆で、その語らう様子は親子のようではなく夫婦に似ていた。商人はまったく理解できず、なお窺っていたが、突然夜寒の風に襲われて高くくしゃみをしたのに驚いて、姿が見えなくなった。

あくる日寺に行ってこのことを語り、あの芝垣のあたりを見ると、合葬の墓があり、今は無縁となっている。その墓の主は、昔二十四、五で死んだ商人であった。妻は長らく生き延びて洗濯婆となり、二、三年前に六十余りで死んだ。よって合葬したということであった。思うに夫婦の者が無縁にて浮かばれず、幽霊となって出るのであろう、その姿は皆生前の形で、間が三十年も経てば、不釣合いな姿になることも理にかなっている、と寺僧とも語った。

・・・しかし昨今のイタズラな滑稽人の作り話じゃないか?

(幽霊は尋常のことであるが、男二十四五、女房六十ばかりというのは、意味があり変わった趣向を顕わし、巧みに考えてあるところ、夜譚・聊斎志異の二書にも無い新趣向である)

(鈴木桃野「反古のうらがき」)

~有名な怪異談集で、比較的懐疑的な編者なことから疑問や蛇足がついてきてます。
mixiサルベージ

by r_o_k | 2017-07-19 15:40 | 不思議 | Comments(0)

by ryookabayashi