揺りかごから酒場まで☆少額微動隊

岡林リョウの日記☆Twitterまとめ日記。過去旅行の整理、歴史・絵画など。

江戸怪談 鳥ごろしの話

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「鳥の殺生には気をつけなされ」

縁側に座った隠居風の男は鳥刺し用のモチ竿を片手に持っていた。

「なあにうぐいすを捕まえようと思ってね、殺生なんざしないよ」

男は足元の鳥籠を掲げると笑った。

老僧は頷いて言った。

「近頃こういう話を聞いた」

「上総国の寺の門前町で戸籍調べがあったときのこと。一人の百姓の家を訪ねたところ、そわそわして、おかしなそぶりを見せた。

「へえ、まあ、うちは子供三人と夫婦で、あと一人いるかいないかわからないのもいるんですが、へえ、それは除いて五人です、六人かもしれませんが、五人です」

と曖昧な発言を繰り返したため、奉行に厳しく問いただされた。

「そこまでおっしゃるんでしたら仕方ない。お見せして判断していただきましょう」

奉行が誘われたのは離れの小屋だった。汚く、豚小屋のような建物だった。

「がたっ」

戸を開くと、外の光が差して、中を照らし出した。奉行はあっと驚いた。

そこには人が座っていた。けれども、目鼻口耳の全てが無い。ぬべっとした生白い瓢箪のような頭であった。少しの音もたてず、沈黙し、ただ座っていた。

「これが我が父だったものです」
「若い頃、鳥を刺し網を張り数えきれない殺生をした報いでしょう。にわかに患いつき、こうなってしまいました」

男は母屋から粥の入った器を持ってきた。

「物を食わせてみましょう」

腰の引けた奉行の前で、男は父の頭上から粥を注ぎかけた。
するとおもむろに頭皮から鳥のくちばしが突き出てきた。
いくつもいくつも、無数のくちばしが突き出てきて、

「けーっ」

一斉に鳴き声をあげて、粥を貪った。

「これ、人と数えていいんでしょうかね」

奉行は首を振り戸を閉じさせたという。」

「ふうん、殺生ねえ」
竿を突く真似をしながら男は返した。
「殺生しないで生きていくのも大変だねえ、坊さん」

「お前さんわかっていないようだね。」

老僧は表情を変えず言った。

「鳥には気をつけなさいということじゃ。鳥は恐ろしい」
「こんな話もある」

「その父親は猟師でな、鳥専門の鉄砲撃ちじゃった。そうとうな腕だったようで、評判は隣藩まで届くほどであったそうじゃが」
「跡取りの一粒種が生まれると、これが生まれつき体が弱く、口がきけなかった。」

僧侶は暗い目を男に向けた。

「それでもすくすく育ち、十くらいになったときのことかな」
「ふと筆を持たせると、さらさらと鳥を描き始めた」


「こりゃどうしたことだ、見てみろ」猟師は妻を呼んだ。
「あれ、どこの絵師さんがお描きになったものですか」
「どこも何も、こいつが描きやがった。誰に習ったんだ?」

じーっと父親の顔を見つめる息子。それは羽ばたく烏の絵であった。まるで生きているようだ、と近所の評判となり、金を払って買おうとする者も出てきた。

「こいつ売っていいか」

息子は首を強く振った。父親は不思議に思ったが、頑としてきかない息子の無言の圧力の前に屈した。

しまいには殿様の耳に入り、屋敷から使いがやってきた。絵を一枚描いてほしいということであった。

だが息子は言われたままのお題を描くことが出来ない。

「ほれ、殿様がおっしゃってるんだから、描けよな、梅からうぐいすがケキョケキョって飛び立つところだってよ、なあ、頼むからさあ」

息子は首を振り、鴨が寂しく水面を泳ぐ絵を描いた。
殿様からの使いは二度と来なかった。
父親はため息をついた。

「どうしてそういう鳥しか描かないんだい?もっと派手な、ホウオウとか、クジャクとか描けば、大金で売れるものを」
「そんなに言うもんじゃないよ。数がまとまったら、こっそり頼んで江戸で売ってきてもらおう。さあ、雀でも鴨でも好きなもの描きなさいな」

息子は両親の言葉には無関心のように描き続けた。

ある日、俄に患いついた。
もう筆も取ることが出来ず、今夜が山か、といったときのことだ。

父親に震える手で、今まで描いてきた鳥の絵を持ってくるように指示した。
「持ってきてどうするんだ」
息子は半身を支えられ起きると、絵の束を両手に持った。

「これは三里先の田んぼで撃った烏」

突然、はっきりとした口調で喋り始めた。

「喋れるのか!」

息子は一枚、一枚、脇に置いては説明を始めた。

「これはどこそこで殺めた雀」
「これはどこそこで撃った雉」

「お前、そいつは・・・」
「思い当たるのかい?」
「思い当たるも何も、ああ、そうだ、その通りだ・・・その鴨は」

「これは隣村の池で撃った鴨」

「そうだ」

父親はいちいち思い当たった。息子は説明し続けた。
最後の一枚を説明すると、ぱたりと倒れて死んだ



老僧は奥へ入ると、紙の束を持って出てきた。

「その画帖がこれじゃ」

男はぎょっとした。

表紙にはトリモチに捕らえられたうぐいすが描かれていた。

「くれぐれも、殺さぬようにな」
「鳥はおそろしいからな。」

男は画帖に触れもせず、立ち上がるとそそくさと去っていった。

「籠をお忘れじゃ・・・行ってしまったか」

老僧はそう言うと、呵々と笑い、無造作に帳面を掴むと、奥へ戻っていった。


****

すいません、原典を失念しています。新著聞集の可能性は高いです。
原典表記はできれば省略したいです。複数なこともあり、アレンジを加えていることもあり。。

追記:前者は新著聞集でした。確か古い時代の元ネタがあります。

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2017/7/19

by r_o_k | 2021-01-28 12:32 | 不思議 | Comments(0)
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