江戸怪談 動物魚介変化のはなし
2017年 07月 18日


この事たちまち人口に膾炙して、見に来る人もいた。屋代弘賢翁の考えによれば、龍はよく変化して蟄居しているものである。もしこの魚が龍種であれば、時日を待ち、風雨を起こし昇天するかもしれない。触らぬ神に祟りなしのことわざもあるから、広い水中に放ってやるのがよいだろうと噂がたったので、すぐに弁慶堀へ放ったという。この話はのちのち確かに聞いたうえ、また、この変化するところの有様を、桂意が絵にして言葉をも書き置いたのを、ある書家から借り得るまま書画とも正確に書き写して置いた。世には珍事もあるものだ。
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(鳥居吉右衛門の見たのは青ミミズにムカデの足が生えたところだという。佐枝何某の見たのは頭の方はムカデとなり、尾の方は未だミミズで、足も頭の方はちゃんと生じ、尾の方はだんだんと少し生じていた。)
私は名古屋で成人したが、一度も変化する所を見たことが無いので、このように変容話を聞いても、不審に思うのは私だけに限ったことではないだろう。国により所によってはいくらもあることだろう。聞いてみたい。
またある人が、アサリがカニに変化しかかっているものを所持するとの事を聞いていた。私の下男幸蔵は、我国愛知郡戸田村の者だが、この村ではアサリはたびたびカニとなることがあり、成りかかりも時々見当たるから珍しくもありません、というのでよく聞くと、アサリの殻を被り、肉は細長く出て、その出たところに毛が生えて足となり、やがて殻を脱して紫色を帯びたカニとなるという。
(三好想山「想山著聞奇集」)1850年刊行
文政二三年頃だろう、鰺ヶ沢の漁師たちが一匹の蛸を捕えた。その蛸の脚一本は俗に白ナブサという蛇で、しかもウロコも全く備わり、蛸の頭に付着するところは蛇の頭の方で、眼口は無いけれども他七本の普通の脚と長さも等しく、三時ばかりの間はこの蛇の脚のみ死にもせず蠢いていたという。これは魚の行商をする岡田屋伝五郎という者の話したことだ。
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また、天保五六年頃に、どこの海中から揚がったものか、大きな蝦蟇があった。頭の方はソイという魚になって下半身は蝦蟇であったものを、ある太夫の邸宅へ持ち来たのを見たといって藩中七戸某が語った。
(平尾魯遷「谷の響」)
板谷氏の話は変化絵を売るための捏造だったとされています。