
ふと僧侶が顔を出す。
「へえ、実は・・・」
皆で夜道を帰る途中、前にぼうっと光るものが見えた。
宅の前に父が立ってました。
「こんなところにいるわけがない。 」
胸の病でお医者にかかって、今は遠くにいるはずなんです。
「おっ父・・・なんで」
すると、
「けえっ!! 」
と声をあげたんです。
びっくりして
とっつかまえました。こいつお父に化けてやがった。
ばたばたと物凄い力で、みんなで押さえつけてやっとのことで絞めてやった。
往生しましたよ。
「そういうわけで、こうして鍋にして食ってるわけなんです。お坊さんも どうです?生臭ものはダメですかね? 」
僧侶、皆の後ろで湯気をたてる鍋をじっと見つめる。
「・・・こんな話がある。 」
あるお殿様が鷹狩りをしていた折、ある貧乏な家に雉が舞い込んできた。
雉は驚く夫婦のまわりをぐるぐる回ると、夫の懐に飛び込んだ。
ふびんに思った夫婦は、
「このへんに雉が来なかったか」
「いいえ」
と言って匿った。
雉を懐から出してやると、慣れた様子で家の中を歩き回った。
その姿を見て夫は叫んだ。
「親父だ!」
雉の頭には奇妙な形の禿げがあった。まさしく死んだ親父様と同じものだ。
妻は奇遇に涙を流した。
・・・だがその晩、畑仕事から戻った妻が見たのは、ぐつぐつ煮える鍋を前にした夫の姿だった。
土間には禿げのある雉の首が転がっていた。
「こうして食われるために戻ってきてくれたんじゃあないか。久しぶりの肉だ、お前も食え」
にやりと笑った。
「転生の父を食うとは何事か 」
とお咎めがあり、夫は所払いとなった。家は妻のほうが継ぐことになった。
「・・・さて、その鍋の中、本当にただの鷺ですかな?」
そう言い残し、すっと後ろを向くと、家を出る。
振り向きざま鍋の煙が晴れる、
<根岸鎮衛「耳袋」宮負定雄「奇談雑史」より編>