「この世界の片隅に」が非常に話題になって、庶民の戦前戦中の記憶をたどる方も多くなっている。この日記はさくらの方で書いたものでスッカリ忘れていたが、怪談のていをとりながら、そういったたぐいの話としても読めるので、再録します。
※※※
墓参りの帰りに妙な話を聞いた。
御年九十三になるというご婦人、話がじつにゆたかで面白く、喫茶の人と永く聞いていたのだが、女学生のころ幽霊を見たのだという。夜半枕許にす、と誰かが座る。
・・・T子
叔父さんだ。しかし幽霊だとわかった、何故なら遠く長野で村長をしているはずなのだ。
T子
「ユウレイと口をきいてはならない」
そう聞かされていた。がたがた震えながら、呼び掛けには決して答えなかった。暫く呼び掛けが続くと、悟ったのか叔父は話を続けた。これから遠いところへ行くからお別れを言いにきたのだ、と。それでも口をきかないでいると、これから別荘にいる妹(この人の母君)にもお別れを言いに行く。す、と消えた。
おとうさま、今幽霊を見ました、叔父さまです。
恐怖に怯えながら父君を起こすと、ん、とやさしく受け止めた。
一緒に寝てもいいでしょうか?
・・・翌朝、電報がきた。危篤ということだったがとうに亡くなっていたのだろう。母君のほうへ行ったかどうかはわからない、でも弟や親戚やみんな死ぬとき、別れを言いにきたのよ、私優しかったからね、とからからと笑った。迷信に阻まれ挨拶を拒まれた叔父さんの胸中如何ばかりだったか、しかしこの死者としゃべってはいけない、という伝承は遠く江戸時代の文献にみられるもので、流石父君が大隈大臣付きの記者だっただけはある、と感じた次第。
昨日の地震と関東大震災が直にリンクする東京の記憶にくらくらしながらのひとときだった。ああ、まだこういうかたがたがご健在なのだ。
恋を識らない青年に教えてあげなさいと頼まれて、一日新宿でデエトをした話、父君の秘密の初恋の話、本で読むような繊細な時代の話が、識らない筈なのに懐かしい気分のうちに伝わってくる。青年は戦後しら骨となって返ってきた、その哀しくも美しい記憶の中に怪異が潜んでいる。その自然なさまに今の不自然に特異な怪異の有様に改めて頭を拈りつつの帰途である。
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