蠅池の神蛇

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越中蓑谷山の頂上にある蠅池は広さ三百七十間四方で鏡のように満々と水を湛えていた。この池には神蛇が住む。毎年7月15日の夜、容顔美麗な女体が現れ、池の上で一夜遊び楽しむため、人を制し登山を禁ずる。また、この池には椀貸しの伝説がある。この里の農民が豊作の祝に村長古老を饗応しようとしたものの、貧しく宴のための器すらなかった。ある日この池のほとりに行き嘆息して歎くと俄かに池面が波打ち、朱椀など十人前が浮いた。主の同情を得たと喜び厚く礼拝して明後日まで貸してくれるよう頼み、饗応をすますと約束通り返した。村中にうわさが拡がり皆これを真似るようになったが、ことごとく翌朝必要なぶん椀など浮いたという。やがて家具なども借りるようになったが、そのうち一人の老婆、家具を三人ぶん借りてそのまま十日ばかりも返さなかった。しまいには椀を二つばかり失ってそのまま返した。すると池の波はにわかに沸き立ち雷鳴大雨洪水が起きて、老婆は屋敷ごと潰されてしまい、以後祈っても頼んでも二度と家具が出ることはなかった。今は刺刺と薮が繁茂し荒れ果てて、深さは千尋にも及び、常に太陽の光もあたらず、木々の枝が池面すら隠し狐狼の住み処という寂しく何も無いところになってしまった(北国巡杖記)

零落した神とかいって柳田派が喜びそう。
by r_o_k | 2009-11-17 01:21 | 怪物図録 | Comments(0)