水戸の蛇娘

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天保四年春三月、水戸の施療院は身分限らず領民全てに難儀の者あらば専門医者をあてがい薬を処方することで有名だった。水戸城下下町の町人に奇妙な娘がいた。13なる娘は見目麗しく、だが、生まれてこのかた明るい場所を極端に嫌い暗闇を好む。表に出すとパニックに陥るから奇病の評判、それと裏腹に年頃になると稀に見かける娘の美しさ、驚嘆に値するほどという。両親悩み施療院ができた旨御達示があると、役人たちぜひお上に書き出すべしとつたえた。殿様は手当次第とすぐ連れ来るよう命じた。両親おおいに喜ぶが娘、表に出ることを頑なに拒む。役人は表に待っている。言い争いの末、両目に墨を塗った紙をあてがい連れ出した。道すがら評判の娘を一目見ようと人ごった返す。だが娘、城そばでがんとして拒み、役人父親も困り果てた矢先、不意に人垣掻き分けて走り出す。風のように人の上をおどり越え帯つかむ人を振り落とし凄まじい形相、掘まで五、六間のところで軽々と飛び上がり、ひらり身をおどらせて水中に飛び込んだ。それきり浮かぶことはなく、許可を
得てさらうも死体もみつからない。

その日を命日とし人々忘れかけた8月1日、稀にみる大嵐が各地に被害をおよぼす中、掘の中から異様なものがたちのぼったという証言が多発した。娘は龍になった、とうわさになったという。異聞雑稿より。
by r_o_k | 2009-10-13 01:35 | 怪物図録 | Comments(0)