猿酒というと九州では土産物だが青森のある家では別の意味をもつ。いわく徳川の世に小猿を生きたまま壷に詰め塩漬けにした酒が腹薬として伝わっており、300余年をへて未だ伝承者の手にあるが、中を覗いた者は死ぬ。近年の話しか伝わらないがいずれも自然死の形で死んでいる。伝承者も覗いたが死ななかった。淀んだ液体の中にコチコチに固まった小猿のミイラが入っているようなものだという。
![]() あきらかにオサキやトウビョウのたぐいの影響を受けた話で、クダキツネを筒に住まわせ伝承する「筋の家」が特殊な力を持つとされる話と重なっている。覗いたら死ぬというのはクダに対する禁忌のイメージだろう。生きながら酒に漬けられる小猿というのは犬神のような呪術的な式や「蠱毒(壷毒)」の影響であろう。「家につく憑き物」のたぐいはじっさいにはこんなにダイナミックでわかりやすい形は示さないのだが、これはフジテレビ系列「アンビリバボー」第一回の「恐怖のアンビリバボー」で紹介されたもので、脚色もあるのだろう。他で続報を聞かない。 津軽は八甲田の秋、男が山中を歩いていると路傍に棒が立っている。それがぱたり、と倒れ、また立ち上がり、ぱたりと倒れる。繰り返している。よく見ると蛇だった。周りを大きなカタツムリが一匹、回っている。動きがカタツムリとは思えないほど速くなり、輪は縮んでいき、蛇の立ったり倒れたりするサイクルも早くなり、最後にカタツムリが蛇に吸い付く。蛇は即どろどろと溶けてしまった。男は一目散に逃げたが、翌日再び訪ねてみた。白い棒状のものが立っていた。溶けた蛇の汁から生えた、大きなキノコだった。傘の裏にみっしり小さなカタツムリがついてキノコを食べている。昨日の妖怪蝸牛の子だろうということになった。
![]() 蛇に見込まれた蛙という言葉があるが、これは実は妖力をもつといわれていた蝸牛が蛇の毒力をも圧倒したという話。マタンゴ。 女が歩いているとふと髪が根元から切れて飛ぶ。男の髷が切れて落ちる怪異もあったと思う。人ごみで起こるものについては普通に考えると幕末に多かった「通り魔」だろうし、そうでなければかまいたちのたぐいだろうと思われるが、今でも時々そういうニュースが報じられる。
![]() 江戸時代には長い髪は鬘の材料としても珍重され、それが伸びる前に落ちるというのはどっちみち不幸なことでした。 風に白髪のようなものがのって飛ぶ。青空に無数の毛が飛んだり、降りたりするさまが不可思議。手にとると蒸発する。種々の呼び方があり、欧米でも似たような現象が怪異として報告される。原因にも複数あるが、季節ものとしては虫・・・雪虫(綿虫)が糸をひいて風にのって飛ぶさまや、蜘蛛の子が糸で風を切り旅をするさまなどが原因として考えられる。しろばんばは白婆という意味で、雪虫のこと。
![]() 毛の降る現象については火山性の物質が原因のこともある。大島の三原山噴火のさい毛のようなものが降った話が報告されている。空から不思議なものが降るというのは洋の東西を問わず定番の怪異です。 逆柱は天地逆さまに立てられた家の柱。ポルターガイストのような変異を起こすといい、五行~安倍晴明の紋とされる五ぼう星~を書いて厄除けとする習慣もあった。本来天地は元の木の向きにしたがって立てるべきという考え方もあろうが、そもそも建築のさい柱に逆のものを混ぜると天井板や床板との継ぎ目のバランスが崩れ軋みなど生じることもあったようだ。材木の再利用の多かった昔においては材木についた傷を隠すため逆さまに立てたりもあった。禁忌を破ったため天地鳴動したり人病に次々と倒れるという話がある一方で、江戸時代にありがちだが戯れた洒落歌を詠んだことであっさり変異がやまったという話もある。これなど逆柱があることにストレスを感じていた人々の気持ちを逃がしたと合理に片付けることもできそうです。
![]() 賢柱や榊木柱と読み替えられている建築もある。神道建築において何らかの意味をもっていたからこそ逆に禁忌とされたのだろうか。但し、このような建築に「未完成部分」を残す方法はかなり時代が下る中国渡来の風水的な考え方なので、神代からのものには当てはまらないのだそう。 東京都稲城市の伝承とされるが、川崎をはじめ多摩川両岸中下流域に広く伝わっていたもの。かつて昭和のはじめまで、12月8日、2月8日の前の夜にこのあたりの農家はみな藁屋根に竹ざおを高く掲げ四つ目ザルをさかさに吊るした。それは「目を借せ」と言って「目借り婆さん」がやってくるのを避けるためであった。目借り婆さんは目を貸してくれない家には眼疾をもたらす疫病神であり、四つ目ザルは「目がたくさんある」ことから目借り婆さんがかわりに持って行くとされたのである。
![]() 雪女と伝承されている地域が似ている。自然の猛威が重くのしかかる農業を営む都市近郊の「都市伝説」だったのか。田園調布のあたりではミカワリバアサンと呼ばれ、川でなくした子供を探してやってくるとされた(うぶめとも雪女とも混淆している)。名称の原意を離れた変容はこの妖怪に限らないけれども、物証や文字によるものではなく口承による伝播だった証左です。 遠州見附宿にいたという「泣き声」のお化け。門口に立たれ二度三度泣かれると、悪いことが起きるという。バンシーのようなものと考えたらいいが、泣き声の反面気味の悪い笑い顔で描かれるは蕪村妖怪絵巻。
![]() 蕪村はその泣き声に誘われて人思わず涙を流すのだという。妖怪然としたものではなく疫神でもなく、何かの精霊や先祖霊のようなものだったのだろう。 江戸時代の妖怪絵図には「二本足」などなどこのての「畸形妖怪」が登場するが、外来の絵図に描かれたものの影響も指摘される。胴に顔がある無頭人も中世ヨーロッパに流布していたアフリカ中近東にいるという怪人絵の影響が強いように思われる。「ばけもの絵巻」には一つ目の僧形のものがかかれている。腰に巻いた布と杖がオリエンタルな風情をかもし元ネタとの共通点を晒している。説明文は土俗的な因果譚となっている。それによると昔無益の殺生を好む者に首のない子が生まれた。人跡未踏の山奥に捨てたところそれが成長し腹に目口ができて、雪の降る夜に里に出て子を喰らうようになったという。
![]() 場所も詳細も書かれず、風説に近いものだろう。 こがらす、と読む。烏が年をふるとまるで人間のようになってきて、千年もすれば墓場を掘り返し死骸を喰らうようになるという。ニューギニアの食屍鬼ローペン(UMAとして翼竜の姿で伝わるが、じっさいはある種の精霊の属性と混淆しているらしい)を思わせるが、図絵では人間の姿に烏の頭手足という民俗的な形態だ。猫又と同じ、遡って「土中に住み海に沈むもの年長ずると悉く竜に成る」という中国以来の古説にもとづいた想像的伝承だろう。さらに子供向けの怪談として説教的なことば、「この世で意地の悪かった人を訪ね、掘り出して喰う」と「土佐お化け草紙」にはある。
![]() 幕末には創作的妖怪絵草子がたくさん作られました。といっても妖怪(もしくは幽霊と妖怪の定義)が現在の意味で使われるようになったのは井上円了先生、アカデミックには柳田國男先生以降ですけど。江戸風俗史や考証学からは三田村鳶魚氏や江馬務氏などが検証してましたが、そういった狭義の妖怪を否定して総括的なものに戻そうとする動きは当然「雲霞をつかむように定義しがたいもやっとした幻」を論じる以上当然で、水木先生が既に絵画活動を通して実践しており、怪人や怪獣(現在はUMAと呼ぶ)などといったものとの区別すら否定して、もっと広義に総括しようという動きは20年以上前にあって、私も当時「怪物」という言葉で総括してみました。「あやかし」が先にあって、それを説明する具体的な姿が「怪物」、という即物的な表現でした。だから宇宙人も入れました(だって「アブダクション」という怪異が先にあって、それを説明するための「宇宙人」と受け取れたもので)物の怪や化け物という言い方をする人もいた。今更そういうことをやろうとしても新味ありませんよ、新しい定義語で専売特許取ろう、という生臭い動機は妖怪に似つかわしいので許されるかもだけど<誰に言ってる 寝ているあいだに枕を逆にする悪戯好きの精霊。あるあるネタを妖怪画にしてみせた、石燕妖怪だけれども、絵図では不定形なものとして描かれており、子供のような小鬼のような姿は水木画で確立したものだろうか。
![]() 開かずの間の枕返し伝説や、北枕の因習などと絡んだものだろう。北枕が縁起が悪い、というのも近年生まれた考えであるけれども。 < 前のページ次のページ >
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