揺りかごから酒場まで☆少額微動隊

岡林リョウの日記☆旅行、歴史・絵画など。

みつどもえ

「太夫元の家の前で、人魂が三つクルクル転っていたんだとよ。ありゃア大札に、鈴木屋、猿屋さんの三人ので、何か曰くがあるんだろう」

という噂が出る。芝居町猿若は河原崎座、権之助が太夫元だったとき、三丁目の総取締大札の某が陰日向となり出方一同押さえ間を取り持っていたのだけれども、どうしたわけだか芝居茶屋の鈴木屋、猿屋ソレと太夫元権之助自身申し合わせて失敗をさせて恥をかかせることがあった。

「どうも大札さん、とんだお気の毒な訳で」

「ナアに、反って楽でいいのさ、小僧さんチョットその包丁を貸してくんな」

何気無く”みさご鮨”の小僧から鯵切り包丁を借りた大札、狂言中の仕切場前に鈴木屋、猿屋を見つけるやツカツカ入って「ウヌ手前のために顔が潰ったぞ」、グサと鈴木屋の横っ腹。ワッという場の騒ぎ、芝居を潰しちゃいけないと居合わせ者ら鈴木屋を芝居小屋前のうちに抱えて連れ込み、血がズウと筋を引くという始末。マア鈴木屋は助からず大札は牢死、ソレ三年経つと猿屋亭主は神経を病んで、ブラブラ死。さらに2、3年で噂が立つ始末となった。

評判となり見物まで出、権之助の宅にも知れたが言い訳するには「ありゃア国の乳母が夜中に蚊取線香焚いたその火が雨戸の三ッつの節穴から表に見えたんだろう。人魂なんて事があるものか」けれども因果、河原崎権之助が今戸へ引っ越しキラクにヤっていると、押し込みが入った。金を出さないものだから脅しに撲った刀の鞘が真っ二つ、飛び出た金物、太夫元の頭を割って哀れ変死とあいなった。団十郎さんは河原崎の跡を取らず、国太郎さんが取るもこれが若死にで、4月8日にあひるの玉子を呑み翌日亡くなったという次第。ここで河原崎家は一時絶えたのです。

~原話:「幕末百話」篠田鉱造著、岩波文庫
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by r_o_k | 2007-07-22 03:05 | 不思議 | Comments(0)

by ryookabayashi