揺りかごから酒場まで☆少額微動隊

岡林リョウの日記☆旅行、歴史・絵画など。

1990 死人坊

能登では、人の死ぬ2、3日前には死人坊というモノが通るといわれる。檀那寺へお礼参りに行く姿だそうだ。これは死んだ後ではない。生き霊、とでも言おうか。死の直前に魂だけが遊離する。アノ世への旅路の準備をしに、家へ帰るのではないか、とも思う。

私の祖父が亡くなる2、3日前のこと。連夜祖父に付きっきりの両親を待って、夕刻姉と二人家にいた。外は曇りどんよりとしている。

チリン。

ふと、勝手口へ向かう表木戸の鈴が鳴った。誰か帰ってきたのかな、と姉に言う。しかし姉は聞こえなかったようだ。誰だろう、と思って待てど、勝手口は閉ざされたまま開く気配すらない。気のせいか・・・と思ったとき、

ガタン。

母屋の、閉じられた木の雨戸が、大きく鳴ったのだ。まるで表から思い切り開けはなったような、力強い音だった。姉も気付いた。思わず外へ出て、母屋のほうを見た。雨戸は閉まっている。降りしきる雨の中、景色は灰色に沈んだまま停まっていた。

その翌日あたりから祖父は急激にボケはじめ、最早正気の感覚はいずこかへ去ってしまったかのようだった。タオルを指差し、取って持ち寄ると怒って戻せと身振りする。おとつい辺りまでの祖父は、もしかしたら昨日のうちに母屋へ帰って行ってしまい、病院にいるのは抜け殻なのかもしれぬ、と家で思う間に連絡が来て、

いってしまったと、知れた。

1990
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by r_o_k | 2007-07-19 02:19 | 不思議 | Comments(0)

by ryookabayashi