江戸怪談 ゆうれいを煮て食いし話(完成版)

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文化二年のひと際冷える夜半過ぎ。提灯を提げ一人で歩く僧侶の姿があった。前方に町屋が見え始め、人心地ついたのか歩みが遅くなった。すると間もなくわいわいと人の騒ぐ声が聞こえる。戸を開け放ったまま光が漏れている。
「これ、お役人に見つかるぞ」
見ると中では職人ふうの男たちが大きな鍋をつついている。煙が吹き出し僧侶は一瞬、身を竦めた。そうして、しばらくその光景を見つめると、低い声で話しかけた。
「ずいぶんと、豪勢ですな」
見事な墨の背を向けていた肩幅の大きな男が振り向いた。
「これはこれは。いえね、いいものが手に入りまして、鍋にして食っているところなんです」
僧侶は屋に足を踏み入れようとせず聞いた。
「いいものが手に入った、とはどういうことですかな」
入れ墨の男は僧侶へ向かって話を始めた。
「実はね」


今日の仕事は首尾よく行かなくて、日が落ちてしまったんです。仕方なく皆で提灯一張掲げながら、目ん玉回るくらい空きっ腹抱えて夜道を帰ってくると、前に青白く、ぼうっと光るものが見えた。
に向かって、父が立ってました。
こんなところにいるわけがない。
の病で、今は上州にて療治しているはずなのです
何でこんなとこ・・・」


よくよく見ると、白い衣を着て腰から下が無い。振り向くと、顔の真ん中に大っきな目ん玉が一つ!


けえっ!!


と声をあげたんです。
びっくりしやしたが・・・こっちは多勢だ、提灯投げ捨てて駆け寄ってみると様子が違う。
大きなでした


ええ間違いなく、青鷺でしたよ。


とっつかまえました。こいつお父に化けてやがった。
ばたばたと物凄い力で足蹴にしてくるもんだから、みんなで押さえつけてやっとのことで首をこう、絞めてやった。
往生しましたよ。


僧侶は固唾を飲んで聞き耳をたてる。
そういうわけで、こうして鍋にして食ってるわけなんです。お坊さんもどうです?生臭ものは駄目ですかね?
「鍋は駄目でも、般若湯ならイケる口でしょう」
「入った入った、さあさあ」


僧侶は湯気をたてる鍋をじっと見つめていたが、微動だにせず、やがて口を開いた。
・・・こんな話がある。


あるお殿様が鷹狩りをしていた折、ある貧乏な家に雉が舞い込んできた。雉は驚く夫婦のまわりをぐるぐる回ると、夫の懐に飛び込んだ。ふびんに思った夫婦は、
「このへんに雉が来なかったか」
「いいえ」
と言って匿った。


雉を懐から出してやると、慣れた様子で家の中を歩き回った。その姿を見て夫は叫んだ。
「親父だ!」
雉の頭には奇妙な瓢箪形の禿げがあった。まさしく死んだ親父様と同じものだ。
妻は奇遇に涙を流した。


・・・だがその晩、畑仕事から戻った妻が見たのは、ぐつぐつ煮える鍋を前にした夫の姿だった。
土間には瓢箪禿げのある雉の首が転がっていた。


「こうして食われるために戻ってきてくれたんじゃあないか。久しぶりの肉だ、お前も食え」
にやりと笑った。妻は恐れお上に届け出た。
転生の父を食うとは何事か
お咎めがあり、夫は所払いとなった。家督は妻のほうが継ぐことになった。
そこまで言うと、僧侶はすっと横を向き、提灯を挙げた。


「さて、その鍋の中、本当にただの鷺ですかな?」


鍋から突き出した「足」が、ばたんと音をたてて床に落ちた。
湯の中に、髪のが一踊り揺らいだ。


       〜根岸鎮衛「耳」宮負定雄「奇談雑史」より編


(以前のエントリはサマリー版でした、こちらが完成した方です)



by r_o_k | 2017-08-01 10:48 | 不思議 | Comments(0)

岡林リョウ☆フツーのつれづれをフツーに書きたいという変な欲望が囁きました。


by ryookabayashi
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