怪物図録(サハブ、鬼胎、ゴミ捨て場の生首、秋田の生首屋敷、スキンウォーカー、前世の敵、くだん(件))

サハブ
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ジョン・アシュトン編「動物学の奇怪な生き物たち」では19世紀当時にはすでに正体のあきらかとなった動物も含め、中世に世界中の生き物がヨーロッパではどう描かれ伝えられていたのか、存在非存在分けずに紹介されている(そのため図像の無く手がかりとなる特徴もよくわからないものの中には、たとえば「木になる羊」のような正体がいくつか推定されている有名なものも、ただわからないものとして含まれる)。サハブは海に棲息する大きな生き物で、体に比べ足は小さい。牛のものに似るが軟骨質である。一本だけ長い足をもっており、それを使って草などを食べたり、身を守ったりする。陸に近縁種と思われるものもいる。

鬼胎
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中世末期に伝えられた針治療の大成本「針聞書」にあらわれたもので、この書物によるとほとんどの病気は寄生虫による。鬼胎は左の脇に発生する。はじめは大きな杯のような血の塊だが、かならず渦を巻くような形状に育ち龍のような頭を顕わし、治療が難しくなる。これが動くと患者は凶暴になりヒステリー状態に陥る。荒い気性に反して動きはのろくナメクジのようなので、荒く手当てすることなく、いくつかある口伝どおりの手順で針を打つと良い。とされている。

ゴミ捨て場の生首
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沖縄のとある公営住宅の特定のゴミ捨て場に昭和50年代より目撃されるようになったもので、ゴミを捨てに来る人を睨むこともあるという。代々自治会に伝えられてきて、それを気に病む住民まで出始めたことで閉鎖されたが、周囲に花畑が作られると何故かぱたりと目撃が減った。王朝時代に刑場だったという話もあるが歴史的に証明されていない。小原猛さんの「沖縄の怖い話 参」~三十六、ゴミ捨て場の生首 より。

秋田の生首屋敷
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秋田のとある土地に元首切り場とされる場所があり、そこに朽ちるに任せた空小屋が建ててあった。その母屋に越してきた家族の一人娘が毎夜うなされるようになり、そのたびに泣き声を聞いた。眠れない日々が続き、その声がどうやら空小屋から聞こえてきていることに気付くと、恐ろしいながらも突き止めずにおれず表へ出て、小屋の扉を開く。すると奥の棚に四つの首級が並び苦悶の表情を浮かべていた。以後娘は高熱を出し寝込んだ。首のうちひとつは女で、それが時折しゃべるともいう。ある朝娘の姿が見えないので家族総出で探して回ると、例の小屋の中で血を吹いて死んでいたという。大陸書房刊「日本の怪奇」より。時代的に首斬り刑の記憶の生々しい明治頃の話か。「首屋敷」は室町時代の説話に出てくる、昔の乱暴者に惨殺された者の首に宿泊者が取り囲まれる話が有名で、著名な妖怪本の稲生物怪録にも首だけの化け物が出てくる。図像的には平清盛の平家物語の一節より鳥山石燕の描き出した「目競」が有名だろう。神経を病んだ清盛が雪の庭に無数の髑髏を幻視する趣向である。これはさまざまな浮世絵師の画題となった。

スキンウォーカー
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10数年前からUMA界隈で囁かれるようになった魔女の一形態でフォーマットはほぼ狼男である。ネイティブアメリカンの伝承とされており、魔女が動物の毛皮をかぶり呪術により(それは時に近親者の人身御供を伴う)動物に変身し超常的な力を得るというもの。もともとはネイティブのものというよりむしろ侵入者の見地から、動物の毛皮を被って変装し敵を討つもしくは身を隠す、さらに遡れば獲物に気づかれないよう毛皮を被って近づく狩りの方法が、典型的なヨーロッパの魔女の変身伝承、さらにジェヴォーダンの獣のような魔的な力を持つオオカミの怪物とも重なり、移住者たちの恐怖を誘ったように見える。じっさいオカルト界隈でこの名が出てくるようになったのは00年代になってだと記憶している。厄介なことにファンタジー小説の素材に使われたのである。むかしホームページに載せたことがあるが、その当時ネット(米)ではいろいろな動物の姿に変身するが結局オオカミ、というような語られ方をしていたように思う。実際そのような映画も作られている。シャドウピープル、ブラックアイドチャイルドと同時期だった。都市伝説化したのだろう。
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前世の敵
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行基が大阪難波に港を建築させ、貴賤老若男女問わず人を集めて説法を行った時の話。ある女の連れ子、もう10才も越えたのに歩くこともできず乳を乞い始終物を食っていたが、説法の最中に大泣きを始めて周囲の妨げとなる。行基、その子を淵に捨てよと言い放つ。泣くたびにそう言われるが女は子の可愛さに従うこともできず、周囲もあまりに酷いと同情する。翌日も子連れでやってきたところやはり子、泣き声をあげ説法の邪魔をする。行基捨てよと責め立てる。女は仕方がないことだと深い淵に連れて行き、子を投げ捨てた。するとその子は浮き上がり、水面に足を踏み鳴らし手を叩き目を見開き見上げながら「あと三年は”取り立て”、喰わんと思ったのに!」と叫ぶ。女は行基のもとに戻る。行基、あれは前世の借金を取り立てに来た者である。前世で三年分の食い扶持の借金をしたままだったために、貸主が子に生まれ変わり三年ぶんを喰おうとしたのだと説いた。「日本霊異記」にある話だが、もともとは中国の話だった可能性がある。中国には金銭の貸し借りが生まれ変わった後まで影響する小説が比較的多くみられる。それを行基菩薩の説話として翻案したのだろう。そしてこの話をベースに日本独自、特に江戸時代になってさまざまな生まれ変わり話、説話や怪談が作られていったと推測される。

くだん(件)
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もはや言うまでもない、一晩しかもたない人頭牛身の怪物で、予言をして死ぬ。江戸末から明治大正まで、おそらく仏教説話用の道具化、見世物としてそのミイラと称するものがはやった。予言の部分は同じような寄り来て予言し去る「予言獣」が、それこそ門前に来て疫病除けのお札を売りつける図像として使われており、それは伝統的な行事のような、職業のようなものでもあったから、実証のためのミイラ捏造もあったかもしれない。説話としては畜生道に落ちるなよ、という戒め(脅し)か。都市伝説化したのは図像的なイメージといくつかの小説によるものと思われる。また、実際に顔の潰れる奇形は世界のニュースではひんぱんに流れることで、薬物などなかった時代にも稀に人の顔に見える薄命の奇形が生まれたことはもちろんあっただろう。


by r_o_k | 2017-06-19 13:34 | 怪物図録 | Comments(0)

岡林リョウ☆フツーのつれづれをフツーに書きたいという変な欲望が囁きました。


by ryookabayashi
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